教員の視点
「民事訴訟のIT化」は
本当に進んでいないのか?
ANSWER!
答えてくれる人
法学科 准教授 宇都宮 遼平
担当科目は民事訴訟法、民事執行法、ゼミナール、大学入門ゼミナール。
早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程を研究指導終了退学後、博士の学位を取得。
日本学術振興会特別研究員、ドイツ・レーゲンスブルク大学客員研究員などを経験。
趣味・特技は剣道。
今後義務付けられる
「民事訴訟のIT化」は先行導入が
スタートしたばかり。
今後義務付けられる「民事訴訟のIT化」は
先行導入がスタートしたばかり。
2022年5月に民事訴訟法が改正されました。改正内容のひとつである民事訴訟の手続きのIT化は2025年度中に施行(法律が効力を発揮すること)され、すべての弁護士に「民事裁判書類電子提出システム(ミンツ)」の利用が義務付けられます。それに先駆けて、いくつかの地方裁判所で「ミンツ」の先行導入が始まっていますが、電子提出の利用は裁判所で取り扱われている訴訟の1割にも達していないと報道されています。
IT化をスムーズに進めるために
注目すべきは手続きの“軽さ”と
訴訟の“重さ”。
IT化をスムーズに進めるために注目すべきは
手続きの“軽さ”と訴訟の“重さ”。
「民事訴訟のIT化が進んでいない」と報道されていますが、現在は「ミンツ」の試行が始まった段階であり、施行は2025年なので、「進んでいない」と評価するのは早いといえます。ちなみに、弁護士が「ミンツ」を使わない理由は慣れない操作に対する抵抗感があるといわれていますが、いずれシステムに慣れ、普及していくと考えられます。ここで重要なのは、効率化された手続きの“軽さ”が、民事訴訟が秘めている人の人生を左右するという“重さ”を踏まえてもシステムの利用のインセンティブとして働くかということを意識したうえで、IT化の進め方を検討することです。
訴訟の手続きを定める
民事訴訟法から学び取れる
「客観的かつ多角的な視点」。
訴訟の手続きを定める民事訴訟法から
学び取れる「客観的かつ多角的な視点」。
民事訴訟とは個人間の法的な紛争を扱う訴訟のことで、交通事故の損害賠償請求や貸金の返済請求などが挙げられます。この民事訴訟の手続き方法を定めているのが、民事訴訟法です。訴えた側の原告や訴えられた側の被告、判決を下す裁判所といったそれぞれの立場にとってよりよい手続きのあり方を学んでいくことで、ひとつの事象を客観的かつ多角的に見る視点が得られると考えられます。この視点は、法律の分野だけで発揮されるものではなく、民間企業に勤めた場合でも、課題やその解決策を見出すのに役立つでしょう。
結論
「客観的かつ多角的な視点」から
見えてくる「民事訴訟のIT化」。
「客観的かつ多角的な視点」から見えてくる
「民事訴訟のIT化」。
「民事訴訟のIT化」に関しては、弁護士の目線からの利用しづらさといった側面が目立ちますが、新システム導入の理由を考えれば、弁護士は勿論、裁判所の側に立っても、訴訟記録が電子データ化されることで労力が減るという側面が見えてきます。今はまだ「民事訴訟のIT化」が本当に進んでいないのかを評価することはできませんが、原告や被告、裁判所といったそれぞれの立場にとって、手続きの“軽さ”がシステムの利用のインセンティブとして働くようになれば、「民事訴訟のIT化」が進んだと評価することができるでしょう。