教員紹介

法学部教員コラム vol.17

2016.07.08 法学科 松原 哲

契約の話:Pacta sunt servanda

法学部では、法学部教員の研究生活の一端や、大学人として
折にふれて感じたことを、コラムとして順次紹介しています!

 

 

2016-6-20 掲載
vol.17   『契約の話:Pacta sunt servanda』
執筆者:法学部 教授 松原 哲

 

 

金沢八景キャンパス風景

 

金沢八景キャンパス風景(Foresight21館・図書館本館)

 

 

 米国のロー・スクールでの教育において、最も重視されるのが契約法と不法行為法だ。我が国の法学教育においても、その重要性は全く同様である。そこで、今回は、契約の話を少しだけ。
 近代市民革命以降の社会(つまり、私たちの生きている社会)では、私たちは、各人の生存、生活あるいは経済活動に必要なモノ(物、サービス、金銭等)を契約(売買・贈与・貸借・請負・労働契約等)を通して手に入れることになる。大多数の市民は意識していないが、契約は、この社会を基礎づける最も重要な制度なのである。
 ところで、「契約はなぜ守らなければならないのか」という問題を「契約の拘束力」の問題という(契約を守ることは、「市民法的正義」とよばれる)。契約が守られないと取引の相手に損害や迷惑を与える、経済や社会が混乱する、約束を守らないのは道徳に反する等の様々な理由が考えられるが、近代市民社会を構想した思想家・法律家たちは、「意思理論」とよばれる根拠づけを行った。アンシャン・レジュームを打破して成立した市民社会は、独立・自由・平等な市民によって構成される社会であり、「自由な市民」が自らの「自由な意思」によって締結した契約に自ら拘束されるという理屈である。従って、「自由」な意思によらない契約、例えば、詐欺や強迫(脅迫ではない)による契約には拘束されない、あるいは、「意思」を形成できない者(幼い子供や判断力が欠如している者)は、契約上の責任を負わなくてよいという考え方が導かれる。
 以上のようなことは、法学部の「民法」という科目で学ぶことになる。民法は、条文が多く、論理も緻密で、学生にとってなかなか大変な科目の一つであるが、以上のような原理を理解できると、細かな規定を知らなくても、法的な判断ができるようになる。法学部で学ぶ学生には、些末な情報にとらわれず、この社会を成り立たせている原理・原則は何かという観点から法律学に取り組んでほしいと思う。高等学校では、世界史、とくに近代史を中心に、中世から現代までの歴史をしっかり学んで、法学部に進学してもらえればと願っている。

 *タイトルの(  )のラテン語は、「契約(合意)は守られねばならない」という古いローマ時代の法諺(法律のことわざ)。

 

 

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