法学部教員コラム vol.9
2012.12.21 法学科 小林 孝一
法学部では、法学部教員の研究生活の一端や、大学人として
折にふれて感じたことを、コラムとして順次紹介しています!
2012-12-17 掲載
vol.11 『インサイダー取引と会社等の信用失墜』
執筆者:法学部 教授 小林孝一 (事故・災害と法政策、民事紛争解決制度など)
企業は、役員や社員による不祥事によって深刻なダメージを受けます。特に、上場会社のインサイダー取引は、重大な信用失墜を惹き起します。
インサイダー取引の規制は、金融商品取引法( 前身は証券取引法 )の重要な柱の一つです。会社の関係者が、経営に関する重要事実を知った上で、その事実が一般投資家に公表される前に抜駆け的に取引することを許したのでは、投資家の間の公平性が大きく損なわれ、金融制度の根幹である資本市場の信頼が失われてしまうからです。
規制の対象者は、重要事実を知り得る者として、上場会社・その親子会社の役職員・アルバイト等、監督官庁の公務員、監査を行った公認会計士、増資の元引受証券会社の役職員などです。また、これら関係者から重要事実を直接伝達された者(第一次情報受領者)、例えば知人、マスメディアの担当者なども、対象者です。
この重要事実とは、投資判断に影響する重要な情報をいい、①株式募集、合併、事業譲渡、新製品の企業化等に関する決定事実、②多額の損害や債務免除の発生事実、③経常利益・配当等の決算情報の変更事実、④子会社に関するこれらの事実などです。
違反した場合の罰則には、懲役刑と罰金刑があり、当人が所属する会社も、罰金刑を科されます。また、行政罰としての課徴金が科される場合もあります。
大事なことは、違反した当人が刑罰・行政罰を受け、報道されることに留まらず、所属する部署・会社全体が、大きく信用を失墜しダメージを受けるということです。家族や他の社員に対しても、多大な被害を与えるということです。インサイダー取引の報道を見ますと、いかに人が経済的誘惑に弱いかが分かります。そこで、特に重要情報に関連の深い部署・会社においては、担当者の限定、退職時の手当て、情報への関与の制限、システム的な防止策、役員・社員等に対する十分な教育等を徹底することが必要です。